採用の数字を眺めていて、こんな感覚になったことはないでしょうか。応募は来ているのに面接まで残らない。受付シートを送ったあたりで返信が止まる。一次面接の日程調整で、いつの間にか連絡が途絶える——。現場の肌感では「なんとなく、あのあたりで抜けている」と分かっているのに、いざ「どのフェーズの辞退率が一番高いんですか?」と聞かれると、はっきり答えられない。
この記事は、そんなモヤモヤを抱える採用担当・人事・採用マーケティングの方に向けて書いています。中途採用などで応募から採用まで複数の選考フェーズがあり、その進捗をHubSpotで管理している。途中で辞退する応募者はいるものの、どのフェーズで抜けているのかを数字で説明できない。だから、案内文や連絡のタイミング、面接設定のやり方を「どこから見直せばいいのか」を決めきれない——。そんな状況を想定しています。
やることはシンプルで、フェーズごとの辞退率をHubSpotのレポートで見えるようにするだけです。専門的なコーディングは必要なく、プロパティ・ワークフロー・レポートといった標準機能だけで組めます。この記事では、その“なんとなく”を数字に変えるところまでを、順を追って説明します。
今回は、次のような選考フェーズが並んでいるとします。
受付シート回答待ち → 書類選考完了 → 一次面接日程調整待ち → 一次面接設定完了 → 一次面接完了 → 二次面接日程調整待ち → 二次面接設定完了 → 二次面接完了 → 内定通知 → 内定承諾 → 採用
選考フェーズごとの辞退率さえ見えれば、「受付シート回答待ちの辞退率が高いから、案内文とリマインドを見直そう」といった判断ができます。ところが、HubSpotでこれを素直に出そうとすると壁に当たります。
多くの方が、まずこう考えます。「選考フェーズはステージ(ステータス)で管理しているんだから、“辞退”になった人を数えて、フェーズごとに分ければいいのでは?」
ここで一つ目の壁です。
辞退した瞬間、直前のフェーズが消えてしまう。
選考フェーズを1つのプロパティ(取引ステージなど)で管理していると、値は変わるたびに上書きされます。応募者が辞退した時点で、その人のフェーズはもう「辞退」です。「一次面接完了のあとに辞退したのか、それとも書類選考の段階で抜けたのか」——一番知りたいはずの“どこで”が、記録に残っていないのです。
「だったらファネルレポートやステージ移行のレポートがある」と思うかもしれません。ここで二つ目の壁です。
“そのフェーズに到達したことのある人数”という母数が作れない。
現在のステージだけを数えると、先へ進んだ人は前のフェーズのカウントから抜けてしまいます。すると「受付シート回答待ちに到達した延べ人数」が積み上がらず、辞退率の分母になりません。通過数は見えても、「そのフェーズを起点にした辞退率」までは届かない、というのが標準機能の限界です。
つまり、辞退率を出すには2つの情報を、上書きされない形で1件ずつ残しておく必要があります。
やることを一言でいうと、スタンプカードです。
応募者が各フェーズを通過するたびに「到達スタンプ」を押し、もし辞退したら、その直前のフェーズに「辞退スタンプ」を押す。スタンプは一度押したら消えないので、選考が進んでも履歴はそのまま残ります。
フェーズ別の辞退率は、こう表せます。
そのフェーズの辞退率 = そのフェーズで辞退した人数 ÷ そのフェーズに到達したことのある人数
たとえば受付シート回答待ちなら、
受付シート回答待ちの辞退率 = 受付シート回答待ちで辞退した数 ÷ 受付シート回答待ちに到達した数
分子も分母もスタンプの合計です。だからレポートの式フィールドで割るだけで、フェーズごとの辞退率が出せます。
まず、記録の受け皿になるプロパティを3種類作ります。設置先は、選考フェーズを管理しているオブジェクトに合わせてください(応募者をコンタクトで管理しているなら、コンタクトに作ります。以下は式フィールドの例に合わせてコンタクト前提で書きます)。
(1) 辞退になった選考フェーズ(1つ)
辞退する直前にいたフェーズを保持します。ドロップダウン(単一選択)で、選択肢に各フェーズ名を入れておきます。
(2) 各フェーズの「到達スタンプ」(フェーズ数分)
そのフェーズに到達したら「1」を入れます。形式は数値がおすすめです。レポートで合計するとそのまま到達人数になるからです。
(3) 各フェーズの「辞退スタンプ」(フェーズ数分)
そのフェーズで辞退したら「1」を入れます。こちらも数値で統一します。
選考フェーズが各フェーズに変わったことをトリガーに、対応する到達スタンプへ「1」を入れます。
これをフェーズごとに用意します。1つのワークフロー内で分岐にまとめても、フェーズごとに分けてもかまいません。
ここで大事なのは、一度押した到達スタンプは、先のフェーズに進んでも消さないこと。これで「そのフェーズに到達したことのある延べ人数」=分母が、きちんと積み上がっていきます。
先ほどの壁——「辞退になった瞬間、直前のフェーズが分からない」を、ここで解きます。
辞退へ変わったときには、現在のフェーズはもう「辞退」になっています。そこで、選考フェーズが「辞退」に変わったタイミングで、その直前にいたフェーズを「辞退になった選考フェーズ」プロパティに書き込むようにします。
これで、辞退した人ごとに「どのフェーズで抜けたか」が、1つの値として残ります。
「辞退になった選考フェーズ」に値が入ったことをトリガーに、その値に応じて、対応する辞退スタンプへ「1」を入れます。
辞退スタンプは、抜けた1フェーズにだけ押されます(直前フェーズは1つなので)。
スタンプがそろえば、あとはレポートで割るだけです。コンタクトベースのレポートを作り、式フィールドで「辞退スタンプの合計 ÷ 到達スタンプの合計」を計算します。
受付シート回答待ちの例はこうです。
SUM([CONTACT.uketsukeshitokaitoumachidejitai]) / SUM([CONTACT.uketsukeshitokaitoumachitoutatsusutanpu])
X軸を作成日、Y軸を作成した式フィールドを挿入することで、月別の辞退率の推移を可視化することができます。以下キャプチャは受付シート回答待ちの選考フェーズで辞退した率になります。
同じ要領で、その他のフェーズ分の式フィールドを用意すれば、各選考フェーズ事の辞退率を月次で追っていくことが可能になります。(以下は5つ分の例)
| 選考フェーズ | 辞退率の式フィールド |
|---|---|
| 受付シート回答待ち | SUM([CONTACT.uketsukeshitokaitoumachidejitai]) / SUM([CONTACT.uketsukeshitokaitoumachitoutatsusutanpu]) |
| 書類選考完了 | SUM([CONTACT.shoruisenkoukanryoudejitai]) / SUM([CONTACT.shoruisenkoukanryoutoutatsusutanpu]) |
| 一次面接日程調整待ち | SUM([CONTACT.ichijimensetsunitteichouseimachidejitai]) / SUM([CONTACT.ichijimensetsunitteichouseimachitoutatsusutanpu]) |
| 一次面接設定完了 | SUM([CONTACT.ichijimensetsuseiteikanryoudejitai]) / SUM([CONTACT.ichijimensetsuseiteikanryoutoutatsusutanpu]) |
| 一次面接完了 | SUM([CONTACT.ichijimensetsukanryoudejitai]) / SUM([CONTACT.ichijimensetsukanryoutoutatsusutanpu]) |
パーセントにしたい場合は式に * 100 を足すか、表示形式をパーセントに設定します。5フェーズを横に並べれば、「どこの辞退率が高いか」が一目で分かる状態になります。冒頭の“なんとなく”が、ここでようやく数字になります。